2020/06/1
院長 野村芳子
1.小児神経・精神系の病気について
当クリニックは小児期に発症した神経・精神の病気の診断および治療を専門としている
クリニックです。病気の種類は多くあります。
脳はいくつかの部位に分かれており、それぞれの部位は大脳、大脳基底核、脳幹、小脳、
脊髄、末梢神経、筋、等と名付けられています。
神経・精神疾患はこれらの部位を舞台として起こるもので、その原因としては、感染、変性
(神経細胞がおかされていく)、腫瘍性病変、血管障害、遺伝子の異常(遺伝子の異常は
親または更にその上の代から受けるもの、またはその患者さんにのみ起こるもの‐突然
変異といいます)、原因の遺伝子は解明されていないが親の代から何らかの素因を受け
継ぐものなど多くあります。
障害の起きる部位により現れる神経・精神疾患は多岐にわたりますが、いくつかを下に
記します。
1) 精神・運動発達の遅れ、自閉症、注意欠陥多動性障害、学習障害等のいわゆる発達障害
2) 異常な運動を示す不随意運動;大変多く見られるチック症(トゥレット症候群もチック症の一型
です)、 ジストニア(種々の原因によりますが、瀬川病は小児期に発症するジストニアです)、
舞踏運動、 ミオクロヌス、振戦(震え)などがあり、その病因も多様です。
3) レット症候群など遺伝子の異常により起こる病気
4) 重症筋無力症;神経と筋肉の接合部において筋肉側にあるアセチルコリン受容体に対して起こる
自己免疫疾患です。
5) 筋ジストロフィーなど、筋肉の疾患 などです。
次に小児期(発達過程)に起こる神経系の病気で重要なことは病変の部位による特徴に加え、
年齢の要素が重要であることです。
① 神経系の病気は、それぞれ一定の年齢に起こる傾向があります。
② 同じ原因で起こる病気でも症状が始まる年齢により症状が異なることがしばしば
みられます。例えば不随意運動の疾患であるジストニアは子供時代におこると全身
が障害され(全身型ジストニア)、成人になっておこると手のみなど部分的なジス
トニア(部分ジストニア)の症状となる傾向です。
③ 症状は年齢と共に変化することがしばしばみられます。即ち、増悪する場合、軽
快する場合、また年齢と共に異なった症状となってくることもあります。
脳は一定の順序をもって発達していくものであるので、上記のような年齢による特徴がみられる
ことになるのです。特に③に関しましては、原因が進行することにより病状が変化する場合、
治療・対応の良否によることも関連することがあります。
もう一つ欠かせないことは、環境要因の影響です。
神経系は素因によりコントロールされる部分、環境因子によりコントロールされる部分があります。
発達過程にある小児の神経系は特に環境因子による影響が大であります。
ヒトの神経系の発達は胎内にある時から始まります。生後は、特に環境要因の影響を受けるところ
となります。
従って、お母さんの妊娠時・出産時の状況から始まり、その後の育児、しつけ、教育、訓練、自己
管理などが複雑な神経系の形成、成熟に重要な影響を与えるといえます。
2.当院における診療方法について
小児神経疾患の治療には上に述べた要素を総合的に診断した上で行っていきます。
実際には、
① 経過(病歴)の分析、症状の解析(神経学的診察)、種々の検査などを行う。
② ①をもとに病態(どのような機序で症状を起こしているのか)、病因を検討する。
③ 最も有効な治療を考える。
治療には薬剤を使用するケースがありますが、症状の変化に対応してきめ細かく処方内容
を決めていきます。 保護者の方にも十分な説明を行い規則正しく服薬してもらうよう心掛
けています。
日常生活面で注意すること(特に睡眠覚醒リズムを整える、日中の運動‐特にウォーキング
など上下肢の交互 運動をうながすこと、活動‐友人関係を築くことなど)について定期的
に実践状況をフォローして必要な指導を行います。
④ 小児神経疾患の治療は短期間に効果が表れるものではなく、ある程度の期間にわたって
継続することで障害が改善していくものです。
この辺は患者さんにも保護者の方々にも十分理解いただき根気強く、希望をもって治療に取り組ん
で頂きたいと思います。
そうすることにより、問題となる症状の治療、改善を行うこと、また本来持っている良い性質、能力
を最大限に発揮できるように本人の意識を高めていくよう指導していくことが小児神経学の目指す
ところといえます。
以 上