小児神経の基礎的事項についてご説明いたします。
神経系疾患とは | |
神経疾患の原因について | |
遺伝子異常による神経障害について | |
人の脳の発達について | |
小児神経専門医による診療 | |
早期受診の重要性 |
神経系疾患とは
神経系疾患とは脳、脊髄、末梢神経(運動及び感覚)、筋肉に起きる病気です。
どのような症状が現れるかについてその一部を次に述べます。
「首のすわりが遅い、這い這いをしない、歩くのが遅い、言葉が遅れている、おとなし過ぎる、人の目を見ない、落ち着きがない、パニックになる、自分の頭を打ちつける、乱暴をするなど何か発達が気にかかる。乳児健診で様子をみましょうと言われた。筋肉がクニャクニャとする、逆に突っ張る、動きが不自然、足や手の動きがおかしい、フラフラする、姿勢が安定しない、震える、目をパチパチさせる、同じ動きを繰り返しする、目の動きがおかしい、瞼が下がってしまう等がみられる。視力、聴力に問題がありそうである、熱さ、痛みをあまり感じないようだなどの感覚の問題が心配である。ひきつけを起こす、てんかん発作がみられる、運動し始め、最中に突然転ぶ、突然意識を失い倒れるなどの発作性の異常がみられる。今までできていたことが出来なくなっていく。寝つきが遅く朝なかなか起きない、昼夜逆転する、学校に遅れる、学校を休んでしまうことが多い。夜中に寝ぼける、夜驚症、夜泣きがひどい、夜尿症がある、足のムズムズを訴える。」
これらは多くの場合神経症状であることが多く、脳に何か問題があることが示唆されます。他にも神経の症状は沢山あります。
なにかおかしいと思ったら様子見でなくできるだけ早い時点で小児神経の専門医に相談されることをお勧めします。
出来るだけ早く正しい診断をし、適切な治療、指導を行っていくことが大切で、子供の将来に大切です。
これらのことを専門とするのが小児神経です。
神経疾患の原因について
神経疾患の原因としては先天性のものと後天性のものがあります。
先天性とはお子様が産まれる前に発症の原因のある病気を言います。最近の研究でその多くが遺伝子異常により発症していることが明らかになってきています。
この遺伝子異常が何故発生するかについては、遺伝性のものもありますが、他に母体に対する何らかの外的要因(例えば感染症、X線、喫煙等)が胎児個体の遺伝子に悪影響を与えることもあり得ます。
後天的発症は、脳の外傷、感染症(例えば髄膜炎、脳炎)、腫瘍性病変(例えば脳腫瘍)、血管性病変(例えば脳梗塞)などを原因として小児が神経障害を起こす事があります。
また、これらに起因して神経障害が後遺症として残るケースがあります。
先天性にせよ後天性にせよ神経障害の原因となる事柄を事前に承知していれば、お子様に疑わしい症状が現れた時点で速やかに専門医を訪問することが可能になることを理解してください。
遺伝子異常による神経障害について
遺伝子異常による障害は治療可能のものもあるということを知ってください。
方法は投薬の他に脳外科による手術によってほぼ完治するケースもあります。
また、リハビリテーションによって症状が緩和されるケースもあります。
更に、未だ研究段階ではありますがiPS細胞を利用した治療法の研究も進められています。
遺伝子異常だからと言って決して諦めずに専門医に相談することをお勧めします。
代表的な遺伝子異常による神経障害は次の通りです。
・瀬川病、他のジストニア
・レット症候群
・一部のパーキンソン病
・一部の脊髄小脳変性症
・種々の代謝異常症
・皮膚神経症候群
・筋ジストロフィー 等
人の脳の発達について
人の脳の発達は遺伝子によって決められる部分と、外界からの要因によって決められる部分があることを理解してください。
外界要因として重要なのは規則正しい生活リズムと睡眠・覚醒リズムを確保する事です。
規則正しい生活リズム
例えば、昼夜逆転をしない、三度の食事をきちんと摂る、日中、日光を浴びるなどが重要です。適度に運動すること、よく歩くことも重要です。
規則正しい睡眠・覚醒リズム
これは乳幼児の発達段階で適正な睡眠・覚醒リズムがありますので、専門医からのアドバイスに従ってこのリズムを確保してください。
例えば、幼児段階での昼寝は重要です。昼寝の長さも長すぎず、短すぎない方が良く1時間半程度が適切と考えています。また、午後の早い時点での昼寝が良く夕方ごろに寝させるのは好ましくありません。夜更かしは好ましくなく早寝早起きの習慣をつけさせることは神経系疾患対策にとっては重要な事なのです。
勿論、最近では就学期以降勉強に追われて夜更かしをするケースが増えてきていますが、幼年期に睡眠・覚醒リズムを崩してしまう事の弊害をよく理解してください。
繰り返しますが、お子様の育児において規則正しい生活リズムと睡眠・覚醒リズムを確保することは大変に重要であることを良く理解してください。
同様に良く歩くこと、日中の運動も大切です。
小児神経専門医による診療
幼児期に発症する神経系の病気の数、種類は皆さんが想像するよりも多いのです。
これらの病気の内ひきつけや癲癇(てんかん)などは症状的に明らかに神経に起因するとご家族の皆さんが判断できますが、自閉症などいわゆる発達障害と言われる病気はある程度時間の経過とともに病状が出てくるため初期の段階ではご家族の皆さんも病気に気づきにくいものもあります。
チック症も神経に病因のある病気ですが、症状が出始めた時点では幼児期の癖と見がちで時間がたてば治ると考える親御さんが多いことは事実です。チックは明らかに神経に起因する病気なのですが、成人に近づいて症状が治まる方もいるため放置されるケースがあります。
心の病と神経系の病気の違いが分かりにくいという点はありますが、神経に起因する病気の数は多いので迷った場合には小児神経の専門医の診察を受けることをお勧めします。
早期受診の重要性
小児神経の病気は完治、ほぼ完治に近くまでなる場合もありますが、実は長期間にわたって付き合っていかなければならないものなのです。なおかつ、完治しないケースがあることも事実として受け止めて頂かなくてはなりません。
患者本人のみならず、ご家族がこのことを受け入れる必要があります。
幼児期から学齢期、そして成人し壮年期やがて老齢期に至るまである意味で生涯闘病が必要になるケースもあるという事です。
しかし、私がここで言いたいことは早期に発見し、適切な診療を行い、これを継続することによって、例え完治は難しくても症状を緩和したり、重篤化させずに済ませる可能性があるという事なのです。
私は、40年間にわたってこの領域で臨床と研究を重ねてきました。至った結論は小児神経学とは生涯神経学だという事です。
小児神経を専門とする医師はこの点を明確に認識して長期にわたって患者さんやご家族に寄り添って医療に当たっていく必要があるという事も合わせて訴えておきたい点なのです。